東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)125号 判決
一 請求の原因一及び二(特許庁における手続の経緯及び本件審決理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告の主張する審決取消事由の存否について判断する。
前記争いのない事実によれば、本願商標は「COKE」の欧文字を一連に横書きしてなり、指定商品を第二一類「装身具、ボタン類、カバン類、袋物、宝玉およびその模造品、造花、化粧用具」とするものであり、引用登録商標は、「QUARK」の欧文字を横書きしてなり、第二一類「かばん類、袋物、その他本類に属する商品」を指定商品として、昭和五三年三月二七日に登録出願され、昭和五八年四月二七日に登録されたものであるところ、原告は、本願商標「COKE」から「コーク」の称呼が生ずることを認めたうえ、引用登録商標「QUARK」からは「クウオーク」の称呼のみが生ずるもので、本件審決の認定するごとき「クオーク」の称呼は生じない旨主張するので、この点について検討する。
成立に争いのない甲第三号証の一ないし三(三省堂発行・新コンサイス英和辞典)、乙第一号証の一ないし三(小学館発行・小学館ランダムハウス英和大辞典)、乙第二号証の一ないし三(旺文社発行・エツセンシヤル英和辞典)及び乙第三号証の一ないし三(自由国民社発行・現代用語の基礎知識)を総合すると、引用登録商標の「QUARK」からなる欧文字の構成は、物質を構成する最も基本的な素粒子を意味する英語であつて、英語としての正確な発音は、発音記号をもつて表わせば、〔kwork/kwa:k〕もしくは〔kwo:k/kwork〕であるが、日本語としては特にこれを翻訳することなく、「クオーク」もしくは「クウオーク」と表記し、そのように発音して右素粒子の意味を表わす語として用いられていることが認められ、これを覆すに足る証拠はない。したがつて、実際の取引界において「QUARK」なる引用登録商標が、指定商品であるかばん類や袋物などに付されて輾転する取引の状況を考えると、迅速さと簡潔さが求められる取引の場において、微妙な発音を含んだ正確な英語としての発音で称呼されるものとは到底考えられず、むしろ、前記の日本語の表記のうちでも、より簡略な表記であり、日本人にとつて発音しやすい「クオーク」として称呼されるものとみるのが相当である。このように、引用登録商標「QUARK」からは一般的には「クオーク」なる称呼が生ずるものとみるべきであるから、本件審決が、引用登録商標は、これを構成する「QUARK」の文字に相応して「クオーク」の称呼を生ずるものと認めた点には何ら誤りはない。もとより、このことは、現実の取引の場において、引用登録商標が原告が主張するように英語としての正確な発音により近い「クウオーク」と称呼されることもあり得ることを否定するものではないが、引用登録商標からは「クウオーク」の称呼のみが生ずるとする原告の主張は採用できない。そして、本願商標の「コーク」と引用登録商標の「クオーク」の称呼を比較すると、本件審決が指摘するように、両称呼は語頭において「コー」と「クオー」の音の差異があるにすぎず、その相違する「コー」と「クオー」についても、「クオー」の部分の発音は「ク」(Ku)に続く音が母音「オ」(o)に長音が伴つて長母音を形成する関係上、より「コー」(Ko)の音に近似したものとして聴きとられるおそれがあるものである。したがつて、指定商品であるかばん類や袋物等を称呼によつて取引する場合において、全体として一連に称呼されたときには、両者は語感語調が極めて相似た称呼として極めて紛らわしい関係にあるものというべきであつて、彼此聴き誤るおそれのあることを否定することはできない。
原告は、「COKE」なる商標が我が国において極めて著名であることを根拠にして、引用登録商標から「クウオーク」の称呼、あるいは本件審決認定のような「クオーク」の称呼が生じようとも、一般需要者が本願商標と引用登録商標とを混同するおそれがない旨主張する。確かに、成立に争いの甲第五号証の一ないし三、甲第六号証並びに弁論の全趣旨を総合すると、コカ・コーラの商標を付したコーラ飲料製品の我が国のコーラ飲料市場全体に占める割合は、昭和五六年から昭和五八年にかけては九〇パーセントを越えており、ほぼ独占の状態であり、コーラ飲料製品の宣伝広告の面でも、「COKE」の標章と「コーク」の称呼をもつて、マスメデイアを通して積極的な宣伝広告活動がなされており、本件審決のなされた昭和六三年一月当時において、「COKE」の標章や「コーク」の称呼は、原告もしくはその系列会社の製造販売に係る清涼飲料製品を表示するものとして、我が国における一般需要者に極めて著名なものとなつていたことが認められるが、他方原告提出に係る成立につき争いのない甲第九号証の一ないし二二(いずれも、商標公報)によつても、「COKE」、「CocaCola」、「コーク」もしくは「こーく」等の商標について、多岐にわたる指定商品を指定して商標登録出願をしていることが認められるものの、前記の清涼飲料以外の商品については、それぞれの取引分野において「COKE」の標章や「コーク」の称呼が、原告の製造販売に係る商品であることを表示するものとして著名なものであつたとは認められず、この認定を覆すに足る証拠はない。
右のように、清涼飲料製品の商品分野において本願商標と同一の「COKE」の標章が著名であるといつても、本願商標の称呼である「コーク」と引用登録商標の称呼である「クオーク」との間に前記のような程度の類似性が認められる以上、それなるが故に一般需要者が常時両者を明確に識別し、誤認混同するおそれがないものとまで認めることはできず、この点の原告の主張は首肯し得ない。
したがつて、本願商標と引用登録商標とが、称呼の類似する類似の商標であり、かつ、指定商品を同じくするものであるから、本願商標は、商標法第四条第一項第一一号に該当し登録ができないとした本件審決の認定判断は正当であり、この点の原告の主張は、理由がないものというべきである。
三 以上のとおりであるから、その主張の点に認定判断を誤つた違法があることを理由に、本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかない。
よつて、これを棄却する
〔編注〕本件における別紙は左のとおりである。
別紙
<省略>